2004年10月27日

『日本のゆくえアジアのゆくえ』(その2)

 さて『日本のゆくえアジアのゆくえ』広瀬隆の感想文第二弾。

 僕が生きてきた中で最も興味が深いのが農業・漁業政策である。僕はお寺に育ったせいか食べ物を粗末にする人間は信用しないし、農民漁民を馬鹿にする人間には侮辱罪不敬罪を適用すべきだとも思ってきた。おかげさまで好き嫌いはないし料理も残したことがない。でもここは飽食の国ニッポン。僕が考える理想とはかなりかけはなれた現実がある。

(引用開始p.17)
 全国平均の食料自給率が四割とは、おそろしい数字である。(中略)一方で農業と漁業の跡継ぎがなく、日本が食料自給率を高めるのがむずかしいと言っているのに、もう一方で大量の失業者がいる不思議さである。失業している人たちが、農業と漁業に進めば、両方の問題が一挙に解決するはずだ。なぜそうならないか。智慧のない霞が関官僚と政治家が、失業者をゼネコン土木関係の仕事にばかり吸収させようと骨折るからである。
(引用終わり)

 東京・大阪の食料自給率はわずか1%、2%である。日ごろから農業に関心のない人間が食料難になって地方に逃げてこられても全く歓迎しない。鹿児島・山形で直接農家と接してきた僕が聞いた言葉だ。国が破綻して(財政破綻は近いでしょう)外国からの信用がなくなって輸出入ができなくなったとき、自給率がこのザマでは非常にまずい。今はアメリカの属国でいいが本当に51番目の衆入りをするか、中国の属国に鞍替えしないとやっていけない数字である。そうなりたくなければなんとしても自給率だけは100%近くまで上げておかなくてはならない。なぜなら工業国家ニッポンは技術力はあっても通貨の信用力がないので自国で生産して販売することは最早不可能になる、つまり日本にいても仕事はないし食っていけなくなるからだ。幸い「円」なんていうローカル通貨が暴落して困るのは日本人だけだ(裏を返せばドルがなかなか崩落しないのは基軸通貨だからである)。だから工業はしばらくあきらめて、農業復興で食いつないで信用を回復するしかないと僕は思うのである。呉王夫差と越王勾践の故事「臥薪嘗胆」を地で行く日が来るかもしれないのだ。

 ケインジアン達は未だに財政出動して景気回復をせよと言う。しかし最近はその筆頭の植草一秀が逮捕されたり(たかだか迷惑防止条例違反なのにあそこまでわーわー言われる筋合いはないとは思うが)、リチャード・クーなんかもめっきり見なくなったので言論人としての勢力は弱まりつつあり、それが大量の失業者に繋がっているということもわかる。ではそういう失業者が農村に行けばいいかというと数字上はその方が良いし僕も学生時代はずっとそう思っていたが、実際はそうもうまくいかない。なぜなら失業者は売るに売れないバブル時代のマンションとか自宅を当時の値段で引っ付いているローンを残したまま隠遁するわけにはいかないからである。都会に留まるしかないのだ。だからこそ未だに政治屋はその人たちに分け前をやるために補正予算の分捕りに目がない。

(引用開始p.24)
 国家予算が八〇兆円規模の日本は、その十二年分の借金を持っていることになる。(中略)この借金をつくった政治家たちは、「この金は国内から借りたものだ」と涼しい顔をして国会で遊びほうけ、アメリカの馬鹿大統領に平気で大金を貢いでいる。(中略)この愚鈍な政治家に運命をゆだね、危機感を持たない国民の自覚も足りない。
(引用終わり)

 国の借金が800兆円、地方自治体の借金を入れると1400兆円になる。浅井隆の試算によると郵貯資金を原資とした財政投融資とか年金財源・国保財源による投融資の焦げ付きまで考えると、2000兆円は超えるだろうと言う。前回も書いたが、こういう事情だからこそ郵政民営化を急がせているのだ。解散しない限りあと2年は国政選挙がないので、与党は強引に進めようと思えば進められるわけだ。
 しかし考えてみると、投票率が40%強でそのうち60%が与党賛成ということは全有権者のわずか24%しか与党に賛成していないことがわかる。投票にも行かない連中がわーわーフマンタレブーになっていてもだけの人任せ国家なのである。

 さて農業の話に戻す。藤巻健史が言うように農業通商問題は単に円が強すぎる(円高すぎる)からもめるのだ。アメリカの農産物が安いのではなく、中国農業の人件費が安いのが問題ではなく、単に円が強すぎるのだ。ボツワナ以下の格付けの国だぞ(お断りしておきますがボツワナという国を嫌っているわけではない。比較対象として採用しているだけ)。どうしてこんなに円高になる必要があるのだ?だから日本のファンダメンタルズにしたがって1円が300ドルになれば財政問題も解決するし農業問題も解決する(輸入が高くなるし農産物価格がインフレになって農業にも魅力が出てくる)。

(引用開始p.206)
 大学の経済学者たちが審議会や新聞紙上などで自由貿易を必須の条件のように発言しているが、彼らは大根一本つくらないのだから、余計なところへ出てこなくてよい。こんな人間の意見を国民が聞く必要もないし、彼らは発言する資格もない。食べ物をつくってくれる人たちの意見に従うべきである。命があって初めてわれわれが存在するのだから、体より大事なものはない。農民の生活の場を守ることほど、都会人にとって貴重な行動はない。
(引用終わり)

 まったくそのとおり。僕は小中学校の義務教育で毎週1時間「農業」を教えるべきだと思う。どういう流通経路でおにぎりがコンビニに並ぶかすぐ答えられますか?1反あたりでとれるお米からどれだけの利益を農家はあげているか知っていますか?

(引用開始p.208)
 日本の農業だけでなく、アジア各国の農家も自由貿易の脅威におびえているのである。(中略)この自由貿易を煽る頭の悪い論者たちは、日本の失われた十年を見よ、と言う。何を根拠に、自由貿易が日本の破綻した産業の再生に効果があると言うのか。こんなデタラメを言う人間たちが、いまだに経済を論じているかと思うと、おそろしくなる。自由貿易を進めたから、日本が破綻したのである。(中略)ウォール街に四〇〇兆円を盗まれてまだ反省もしていない。自由貿易協定による国家の繁栄という物語は、金融の詐欺師たちが言っているにすぎないストーリーである。
(引用終わり)

 農業体験をしていない青白い人間たちにしか決定権がないのはものすごく情けないことだと思う。農家の苦境を代弁すべき政治家がコロッと騙されているから、いつまでたってもアメリカの良いようにしか決まらない。属国だから今のところは仕方がないのだ、我慢してくれとも言わない。実に情けない。前回もちょっと書いたが、ブッシュ再選を前にして強引に米国産牛肉の輸入を解禁するが、国民の安全が政治的駆け引きのネタになるなどとんでもないことだ。憲法違反も甚だしい。警察・司法も植草一秀を条例違反で捕まえるぐらいだったら、小泉内閣を憲法13条違反で即刻弾劾すべきだ。

(引用開始p.216)
 アメリカの食肉安全法は大手企業に対しては連邦検査官が検査しない法律になっており、会社が手抜きをして汚染が発生しても、数週間後か数ヶ月後に挽き肉加工業者や牛肉卸業者が保管する肉を検査して、ようやく汚染に気づくとんでもないシステムであることが判明した。
(引用終わり)

(引用開始p.222)
 全頭検査をかたくなに拒否するブッシュ政権の農務副大臣ジム・モズリーは自ら農場を経営する食肉業者であり、農務次官代理ジェームズ・バトラーも畜産農場経営者、フロイド・ゲイブラーは農業コンサルタント出身者、といった具合だ。
(引用終わり)

 本当の情報は決して大手新聞になんかには載らない。ますます新聞不信を深めてしまう。

 今日も長くなった。中国問題には触れられなかったのでまた明日。

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