2004年09月29日

新説新生銀行の巻

f213036f.jpg『ハゲタカが嗤った日』浜田和幸・集英社インターナショナル お勧め度★★★★
(要約始め)
 バブル後、連日マスコミによってバブルの犯人扱いされた元イ・アイ・イ社長の高橋治則。表向きは当社の経営再建を支援する姿勢を見せ、その裏で資産乗っ取りを企てていた旧長銀。アメリカの裁判制度で認められている「ディスカバリー」制度により当時の長銀の内部資料が表に出たことによって、これまで一方的な社会的制裁を受けていた高橋に対する見方が一変する。常識を疑うような長銀の陰謀の詳細がなんとも無様に公開される。また、8兆円もの税金をつぎ込んで国有化した揚げ句たった10億円で外資に売られて再建を果たした新生銀行の誕生に到る国会議員のやりとりとその幼稚さが示すものは、やはり日本はアメリカに赤児同然に扱われていたという情けない姿であった。だが、自らの汚名を晴らすべく高橋の執念がついに長銀のみならず、上場を間近に控えた新生銀行およびハゲタカファンド・リップルウッドホールディングスを震え上がらせた!上場どころか再び新生銀行が破綻するというシナリオが実現間近であったのだ。だがしかしここからいろんな圧力がかかり、思わぬ展開を見せる。リップルウッド社長のティモシー・コリンズやその指南役バーノン・ジョーダン、その背後にあるビルダーバーグ会議・・・様々なハゲタカ達が織りなす詐欺と欺瞞の世界。著者はただ一人、高橋本人とのインタビューを敢行し、今までの報道のされ方とは全く異なる高橋の人物像を描いてみせた。
(要約終わり)

 北海道に行き来する飛行機で読んでしまった。ちょうど僕が金融機関に入社する前年にいわゆる金融危機が起こり長銀がおかしくなったり山一が潰れたりした。よくそんなときに金融機関に就職する気になったもんだとも思うが、僕が勤めた会社はすでにその前の住専問題で一番の渦中にいたので、そのほとぼりが冷めた当時はそんなに無茶苦茶やばい会社ではなかったのだ。本書はその長銀がイ・アイ・イ社に対して行ってきた陰謀の数々をまず紹介している。一般に銀行員ってのはこういうやばいやりとりもきっちり記録に残している。僕も現役時代よくこういう記録を書いたもんだ。でもこの件のようにあまりにも露骨にイ社の資産を乗っ取ろうという計画を記録していて、さらにそれが新生銀行の倉庫で見つかるという大失態にはさすがの僕も引いてしまった。ちゃんとシュレッダーしとけよと。まあこれがサイパンでの訴訟、つまりアメリカ国内での訴訟にからんで「ディスカバリー」制度によって明るみに出ることになったわけで、日本の法律ではどうがんばっても出てこないシロモノなのだ。これが上場間近の新生銀行を直撃する。上場目論見書に現在係争中の裁判はないとかいろいろウソを書いていたのに加えて、新生銀行が抱えるイ社の裁判の行方次第では、損害賠償金の異常な金額が普通のアメリカでの裁判ということもあり、賠償支払いで一気に新生銀行の自己資本を吹き飛ばしてしまう可能性が出てきた。お!ハゲタカを追い込んでる!すごいぜ。でも結局は高橋も和解に応じたので最終的にはそのシナリオはオジャンになった。
 
 僕は高橋治則という人間を見直した。というよりもまたしてもマスコミの罠に僕自身が引っ掛かっていたことを再度認識させられた。マスコミはバブルの戦犯を誰かに押し付けて総括したかっただけなのだ。バブルの時は財テクしない人間は人ではないみたいに散々人々をあおっておいたくせに。これだけ悪事をやらかした旧長銀の経営者は世間から見れば銀行員という一番信頼できる(注:当時は)人間であり、バンバン不動産投資に精を出していた高橋を悪者にすればすんなりバブルパージは終了すると見込んだのであろう。国民はそれに皆だまされてしまった。でも、この内部文書が表沙汰になった以上、本当のバブルの総括をきっちりと責任を感じているマスコミの手でやってほしいものだ。彼らはいっつも逃げるから。

 ハゲタカとは良く名付けたものだ。潰れた長銀のうま味をどこからかビルダーバーグ会議が嗅ぎつけてコリンズに指令を出していたらしい。瑕疵担保条項を付けて、国民にほとんどの負担をさせておいて、強引に貸し剥がしをして、そこまでやったら誰でも健全な銀行にできるっちゅうねん。それを日本の税金がかからないオランダにファンドを置くという裏技を使って(以前『老人税』
で副島さんが暴露していた手法)利益はそっくりそのまま海外に出ていったという、ホンマに情けないやられ方でハゲタカはおいしいところを全て持っていった。あっぱれ。完敗だ。ちくしょう。

 本書には国会での与野党のやりとりも克明に記録されてある。それを読んで強く感じたのは、やっぱり民主党の若手って勉強してるなあってこと。こうなることを予期してかなり込み入ったことを当時のバカ大臣(上から読んでも下から読んでも「おちみちお」とか言って演説して落選した人)に質問している。でもバカだから意味わかっていないの。竹中大臣にしてもアメリカの手先丸出しの解答しかしていない。嫌いな政治家もいるけど、まあこれからはやっぱり民主党ですね。自民党のおじいちゃん達はハゲタカに出すエサはもっててもやっつける智慧がないから。でもこのままアメリカに搾取されても良いって考える人はどうぞ自民党に清き一票を入れてやってください。

 日本人は本当に忘れやすい民族だ。8兆円もつぎ込んで瑕疵担保条項でさらに税金がつぎ込まれて、貸し剥がしでたくさんの会社が倒産して、揚げ句の果てにぬれ手に粟の上場利益に税金もかけられない。こんなお粗末な金融行政をしていて誰も文句言わないし、当時の責任者をパージする機会すらもたない。そりゃ今は郵政民営化の方が大事な話題だろうけど、このハゲタカのやり方を総括しておかないと同じような方法で郵貯までもハゲタカに乗っ取られるんだよと言っておきたい。副島さんの研究では竹中大臣はポール・ボルカーと繋がっていて、国民のお金をせっせと外資に差し出す準備を進めている。それでしこたまおいしい汁を吸われた後に、日本のお札は価値がなくなって、ハイパーインフレ、預金封鎖、新円切り替えと、またしても戦後と同じ過ちを繰り返すんだろう。そうなってからでは遅いけど、まあもう止められない動きでしょう。僕はお金あんまり持っていないので全く心配はないけど。

 ちょっと今日は長くなった。金融の話だとついついいろいろ書いてしまう。やっぱり僕は金融業界が体質に合っていたようだ。とは言ってもこれからは、そういう娑婆を捨てた出家の道を進む。あんまりお金の話を追っかけても偉くはなれない世界だ。でももうちょっと前向きな出家ってないものだろうか。まあ出家後も寺の財産管理なんかは必要にはなってくるんだが、果たしてそれで煩悩がないと言えるのだろうか。いやあまったく不毛な哲学論争だ。

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この記事へのコメント
北海道旅行お疲れさん。というより、すすきの徘徊お疲れさまでした。
今日は青山の引っ越し終了し、とりあえず一つ片付いたという感じです。自身の引っ越しを含め、まだまだやることはいっぱいあります。
さて、いつも拝見しておりますが、どうも最近暴露系にはまっておられるようで、読書傾向が片よっているように思われます。ぜひ次回は、知識系の読書日記ではなく、感情系の読書日記を期待します。常に冷静で感情を表に現さない君がどう感情を表現するのか非常に楽しみです。特に私が心揺さぶられ涙した、ゲーテの「若きウェルテルの悩み」、小デュマ(「黒いチューリップ」の著者、大デュマの息子ね)の「椿姫」の感想を期待します。
ほな、また。
Posted by O川 at 2004年09月29日 23:50
「椿姫」は大学時代読んだ記憶があります。電車の中で涙をこらえながら。嗚呼、あの時は青春まっただ中で世の中の酸いも甘いも知らない純粋な生き物でした。月日は人を変えますね。ちょっとやそっとの文学では涙を流すことがなくなってしまったのが残念。もともとヴエルディのオペラ『椿姫』をCDで聴いて是非原作を読んでみたいと思って読んだ本だったと記憶しています。あの序曲は秀逸です。今でも陶酔してしまいます。アルマンに身を置き換えて恋をしたあの頃の自分がよみがえります。
 ゲーテは斎藤孝の『座右のゲーテ』集英社新書が気になっていたので買ってみようかな。岩波文庫の「若きウェルテルの悩み」は本棚にあるのでまずそれからかな。ドイツ人は日本人とよく似ているので僕もはまるかもしれません。
 
Posted by 坊主 at 2004年09月30日 09:08