2005年11月25日

銀行が利益をいっぱい出したのは良いとしても,本質を見誤っていないか?

 今日はみなさん新聞を読まれたら,銀行が儲けまくっているという記事に遭遇したことでしょう。これについての雑感を少々。

 主要6紙の社説を読み比べましたが(書いていないところもありました),読売新聞の社説は面白みのないものでした。今度は顧客の方を向けという主張でしたが,そんなことは皆が感じていること。オピニオンリーダー(なのか?)らしい社説を展開してもらわないと困ります。
 そこで,まずツッコミどころありという意味で,産経新聞の社説から引用しよう。

(Nov/25/05 産経新聞新聞社説より引用者による要点箇条書きにて引用開始)
【企業収益 始まった優勝劣敗の時代】
  • 東証一部上場企業の九月中間決算は過去最高の経常利益を更新。
  • 好決算は増復配だけでなく,株価上昇,従業員の収入アップといったかたちで家計を潤す。これが消費拡大,設備投資増に結びつき,再び企業業績に跳ね返る。景気の好循環のかたちがくっきりと見えてきたのは心強い。
  • 長期不況に苦しんだ企業は,不採算部門の整理,人員削減などを断行し,投資も厳しく精査した。こうした努力が企業の財務体質を強化し,好決算を生んだのは間違いない。
  • 追い風に乗れなかった企業は,戦略構築の失敗や,リストラの不徹底を指摘されてもやむを得まい。
  • こうした企業改革の背景に,日銀の超低金利政策があった点も忘れてはならない。企業の利子負担を軽減し,リストラや設備投資を促したのは確かだ。
  • 超低金利政策は当分維持されるだろうが,量的緩和は解除に向けた議論が行われている。解除された場合の市場金利の動きは予測できない。企業の備えは万全なのか。
(引用終了)

 あいかわらずの”上から目線”の主張は気分を害しますが,いつものことだから許してやろう。
 まず,根本的な内容の矛盾を指摘しよう。
 本当に「景気の好循環のかたちがくっきり」見えて来たのなら金利が上がらないとおかしい。実際は長期金利が徐々に上がってきているのですが,なぜ最後に「超低金利政策は当分維持されるだろう」などという予想がたつのでしょうか。長期金利が上がって短期金利が上がらないという現象はもちろん一時的には起こりうることですが,よく考えてみてください。国債売買市場で決まる長期金利(指標としては10年利付債の利回りがよく使われる)が上がるということは,それだけ国債の売り圧力が大きくなるわけです。なぜそうなっているかというと,「くっきり見えた」景気回復のおかげで,銀行は儲からない国債になんて投資する理由がなくなるからです。当たり前でしょう。銀行は株式会社ですよ。儲かる事業が目の前にあるのに放ったらかしにして儲からない事業にばっかりカネ注いでたら,経営者はすぐにクビになりますよ。
 郵政民営化にだって産経新聞は大賛成だったはず。民営化して官から民へ資金が流れるというアナウンスに何の疑いも持っていなかったはずで,郵貯が低利回りの国債を売って高利回りの企業向け貸出とか外債を買うとかすれば,官から民に流れるし円安になるし金利は上がるってことぐらいはわかってたはず(実際,郵政民営化法案が通ったあとの円売りはものすごいですよ。おかげで僕のFXは空前の利益をあげていますがね)。
 次に起こるのは長期金利の上昇に伴って起こる,長期貸付の金利上昇です。これは,設備投資しようという需要が大きくなったら少々金利が高くても借りたいと思いますから金利は上がるのだと考えてもいいでしょう。長期金利が指標になってさまざまな金利体系が決められていますから,例えば住宅ローンの金利も上がっていくことにもなります。借りる側にとっては金利負担の増加になりますね。
 一方で低金利政策が維持されたらどうなるか。無担保コール金利がゼロ金利(かそれに近い)ということは,銀行は別に預金者から集める預金金利を上げなくても銀行間で超低金利で借りられるということです。わかりますか?銀行が稼ぐであろう利ざやの額がかなり大きなものになるということです。預金者の金利はゼロに近いままローン金利だけが上がって,銀行は調達金利を低く保ちながら高金利運用ができるのでさらに利益を伸ばし続けることでしょう。
 ・・・銀行至上主義論者ばかりじゃあるまいし,こんな状態が続くでしょうか?

 この状態が続いたら困る機関で放っておけない存在なのが日銀です。日銀だって本当は日銀法で禁止されている国債の引受をさせられていて(注:もろに禁止されているプライマリーな引受ではなくて,セカンダリーでの買切りという実質的な引受という意味です)損切りもさせてもらえない国債をたんまり持っているので,長期金利が上昇し続けたら含み損で債務超過になってしまう可能性だってあります。ま,これを見越してか,日銀は保有国債の会計上の評価法を,決算時に国債相場下落による評価損を計上しなくてよいというような変更を施しているわけですが(これって本当は許されないことなんですけどね)。とにかく実質的な債務超過ってことはありうるわけで,もちろんそういう事態は避けたいから日銀だってゼロ金利を解除しないとやっていけなくなるのです。彼ら自身がわかっているから早いこと量的緩和をやめてゼロ金利もやめたがっているわけでしょう?銀行から買い取った株の含み益があるうちに処分して少しでも財務体質を強化しておかないと,保有国債の暴落は円そのものの信頼をも失墜させることになるからね。

 そんなわけで,産経新聞は「経」の字が入っている割には金融経済のことが全くわかっていないことが判明しました。
「企業の備えは万全なのか」には笑いました。ホリエモンに買収されかかった当事者がえらそうなこと言うな。

 続いて毎日新聞のコラムを引用しよう。

(Nov/24/05 MSN-Mainichi INTERACTIVEより引用者による要点箇条書きにて引用開始 ※原文はリンクへ)
【大手銀行:「もうけ過ぎ批判」が再燃か】
  • 大手銀行が05年9月中間決算で空前の利益を上げたことで,不良債権問題の深刻化以降,目立たなくなっていた「もうけ過ぎ批判」が再燃する可能性がある。
  • 日銀が量的緩和政策を続ける中,預金者へ支払う利息は事実上,ゼロに張り付いている。100万円預けた場合,利子はスーパー定期でさえ年間1500円。「これだけもうかっているのに,なぜ,預金者に還元されないの?」との疑問が出ても不思議ではない。
  • みずほフィナンシャルグループの前田晃伸社長は「非常に大きな額の不良債権の処理をして,過去の資本の蓄積をほぼ全部使い切った。今は資本を少し戻している最中」と,衰弱した体力の回復過程にあると説明。
  • さらに「(小口顧客の)預金対応収益はマイナス。デフレが解消してから預金金利をお返しすることしかできない。」とも述べ,預金金利の引き上げは,日銀の金融政策が変更され,短期金利がつくようになった後との考えを強調した。
  • 株主への利益還元は早めに行われるが,超低金利の解消には当分,時間がかかるとみられることから,預金者への還元は株主より遅くなりそうだ。
(引用終了)

 景気回復なのに超低金利継続というような産経新聞のような矛盾した論理展開ではないのですが,いまいち弱い。国民を動かすにはアピールが足りない。僕なら次のように書くね。
 
「何十兆円もの国民のカネを公的資金などという誤魔化し用語で投入されておいて(もとは郵貯簡保などの資金を大蔵省(当時)が財政投融資で支出),責任者の追求もなあなあで退職金もたっぷり支払って,デフレが進んでいるのに手数料だけは値上げして,国民には十分な金利も払わずに中小企業の虎の子資金を貸し剥がして,外貨預金みたいなうさん臭いバッタ商品を甘い言葉で売りつけたらアホでも儲かるはずだが,実際は貸倒引当金の戻り益で利益を底上げしないと最高益を達成できない本当の理由を彼らはわかっているのか?国民の税金をバカスカ使ってるのに自らの高給を下げることに目一杯抵抗して,自らを「勝ち組」と呼んではばからない。このたわけが。いろんな犠牲のうえに自分たちの虚業が成り立っていたんだという自覚と反省がないのなら,邦銀が欧米銀行に肩を並べることなんて永遠にできないだろう。」

 ああ,ちょっと書きすぎたな。話の続きはまた明日。

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