2005年11月19日

グローバルソブリンは今投資すべきか否か

 ある先輩からグローバルソブリンについて質問がありました。今の時期買うべきかどうかについて,「僕の個人的な」意見を述べたいと思います。

 まずは事実確認から。
 グローバルソブリンというのはもともとはどこかの証券会社が設定するファンドの商品名だったと記憶しています。それがカテゴリ的な使い方をされるようになって,特に毎月分配型がものすごい人気を呼んで名称が一般化しました。ソブリン(ソブリン債券)とは「各国政府などが発行する債券」の総称で,一般的には(外国)国債ですから,仕組みは海外債券投資信託の一種と言えます。

 基本知識のおさらい。
 海外債券投資信託と聞けば考えられるリスクは,為替リスク,信用リスク,金利リスク,流動性リスクなどです。それぞれ見ていきます。

  • 為替リスクは例えば円高になれば元本を割る可能性が高まります。為替リスクはヘッジするタイプとされないタイプがあるようで,当然ながらヘッジしないタイプはよりハイリスクハイリターンになります。
  • 信用リスクは主に国のデフォルト(債券不履行)にかかるリスクです。巨額の双子の赤字を抱えてどうにもならないアメリカの通貨をどこまで信用するかなどの個別国に対するリスク評価になりますが,まあ通常はことさら危険視するほどのものではないでしょう。そもそも高格付の国の債券しか入れないでしょうし。
  • 金利リスクとは要するにインフレリスクのことです。インフレ懸念などで長期金利が上がると債券価格は下落しますから,当然ファンドとして(時価評価ベースで)元本割れの可能性が出てきます。例えばアメリカでは今インフレ抑制議論が盛んですから,実はグローバルソブリンで最も気をつけるべきリスクであると言えます。
  • 流動性リスクとは,売りたくても買い手が現れず売れない銘柄に対するリスクのことですが,高格付の国債なら心配する必要はないでしょう。

 これらは一般的なリスクについてです。次に,グローバルソブリン特有のメリットについて見ていきます。

  • 債券ファンドであり株などに比べてリスクが小さい。
  • 銀行などでも売っていて,預金のような感覚で取り組める。
  • 毎月分配型が多く,毎月お小遣いをもらえる感覚で投資実績が実感できる。

 細かく見ればもっとありそうですけどこれぐらいでいいでしょう。要するにリスクが低い割にリターンもそこそこよくって,毎月お小遣いをもらえるというところがウケているということです。後でデメリットのところで述べますが,銀行などは売れば売るほど手数料が入ってくるので,彼らにとっても美味しい商品でありどんどんファンドの残高が大きくなっているようです。

 さて,メリットがあればデメリットもあります。で,これらの点は証券会社とか銀行とか売る側にとってマイナス情報ですから,彼らの口から積極的には語られないものです。しかしながら厳然として無視できないデメリットは存在しますから(どんな商品にもあてはまることですが)今度はこれを見ていこう。

  • 販売手数料が高い。
  • 信託報酬が割高。
  • 分配金が流出するということは複利効果が全くないということ。
  • 儲けた分にはきっちり税金がかかる。損しても他の投資商品の利益と通算できない。つまり税制上不利。
  • ファンドが大きくなりすぎてパフォーマンス低下。その結果,赤字配当が多くて元本割れが続いているファンドが多い。

 いいことばかりではありません。最初の2項目ぐらいは銀行も証券会社もボソボソと説明してくれるでしょう。でも3-5項目については誤魔化すか,そもそも説明しないでしょう。ここにグローバルソブリンの最大のデメリットが潜んでいるわけですが,多くの人は気付きません。あなたは気付きましたか?そして気付いた人はこうも考えるはずです。「結局,これだったらアメリカ国債を証券会社で買った方がパフォーマンスいいんじゃないの?」

 そもそもどういう意味かわからないという方のために補足説明をしておこう。
 1点目の販売手数料については,例えばオリックス証券(→ サイト)では1.575%です。1億円以上なら1.05%ですが,無視しましょう。100万円を投資するなら投資する段階で15,750円を証券会社(あるいは銀行)に支払うわけですね。まだ投資してもいないのに。これが高いと見るか安いと見るかは個人の判断次第。

 2点目の信託報酬っていうのは,要するにファンドを運営するファンドマネージャーの取り分です。運用がうまくいけばいくほど彼らの取り分が増えるというものです。これが1.3125%。これは毎年引かれます!運用がうまくいこうといかずとも,100万円に対して13,125円が口座から引き落とされるということ(厳密に言うと運用がうまくいっていればいるほどもうちょっと取られます)。高いですか?安いですか?この水準ははっきり言えば債券投資信託としては割高です。株式投信並み。

 3点目の「分配金が流出する」ということですが,毎月決算を行って得られた金利(債券のクーポンのこと)を分配するときにファンドからお金が出て行くということです。いわゆる「累投」という,分配金をさらに同じファンドに再投資することができません。つまり複利効果がありません。
 なぜこういうことをするかというと,「お小遣い」という効果を演出するためです。ファンドが増えていても運用報告書を隅々まで読む投資家は少ないですから(本来はこういう状態がいけないんですけどね)預金通帳に毎月何千円かの運用結果が反映されている方がウケがいいという,ただそれだけの理由ですね。投資のプロから見れば子供だましそのものなんですが,まあ投資初心者の方々が練習に買ってうまく行ったと喜ぶにはいいのかもしれません。
※ひょっとしたら累投可能なグローバルソブリンもあるかもしれません。僕が知らないだけかも。全てについては調べきれていません。

 4点目の税金については若干専門知識がいります。別にグローバルソブリンだから税金が特別に高いというわけではありませんが,同じような商品なら非課税のものもあるんだよということを知っておいて欲しいから書いたまでのことです。今日はこれについては詳しくやりません。安間伸『ホントは教えたくない 資産運用のカラクリ』東洋経済などを読めば詳しく書いてありますので,そっちをご参照ください。

 5点目のパフォーマンス低下については皮肉なもんです。人気が出れば出るほどパフォーマンスは低下するものなんです。ジョージ・ソロスとか超人気のファンドマネジャーが活躍できたのはファンド自体がそれほど大きくなかったからであって,大きくなりすぎると彼らの動きが相場を引っ張ってしまうようになって,図体のでかさゆえに機動力が落ちてしまう(流動性が落ちるってこと)のです。ファンドを維持しようと思ったら,期日が来て償還になった債券を買い替えないといけないし,大口の解約が集中したら売りたくない玉も売らないといけない場面が出てくるのです。ま,これは有名ファンドの宿命なんですけど,皮肉なもんですね。
 結局,毎月「お小遣い」はもらえるけど,元本は割れてしまっているという状態のファンドがけっこうあります。オリックス証券のものは比較的マシなようですが,人気が出てきてファンドが大きくなったら同じ悩みを抱えることになります。
 また,元本割れしているのにも関わらず,客引きのための「お小遣い」である分配金を出さないわけにはいかないので,赤字配当を余儀なくされているファンドが多いのも事実です。知らず知らず資産が減っている可能性を疑わないといけません。
※何度も言いますが,これはグローバルソブリンだけの問題ではありません。一般の投資信託は全て元本割れのリスクを抱えています。僕はことさらグローバルソブリンを悪く言う意図はありませんのでご了承ください。

 こんなところですか。
 じゃあ,君だったら買うのか買わんのかと問われたら,僕は「買わない」と答えるでしょう。実際に買ってませんし。その理由を書きます。
 
 手数料が高いです。初年度は2.9%も取られます。分配金は100万円あたり毎月4,000円が相場のようですが,年利で4.8%,税金が20%引かれますので税引き後利回りは4.8%×80%=3.84%。ここから2.9%引くと1.0%切りますね。解約するときも信託財産留保額が0.5%引かれますからそれも忘れてはいけません。
 本当にお得でしょうか?
 
 これは元本が不変であるという仮定においての話ですが,実際は元本は変動します。主に為替と金利の影響を受けるということは前述しました。
 為替については円安基調なのでフェイバーに動いていく(つまり儲かるってこと)可能性は高いです。ただし買うタイミングとしてはやや遅いかなと思います。USD/JPYレートが@119.50をつけた段階ですから。それでも長期投資という観点で言えば,デフレと地震リスクと高齢化と財政破綻の役人天国・日本の通貨が高くなることは考えにくいのと,さらには郵政民営化で350兆円もの資金が外貨に変わっていく可能性が高いことから,円安の流れは変わらないと僕は見ていますので,為替だけに着目するのであれば取り組んでも損はないかなあという思いはあります。でも為替ヘッジしているタイプを選んだらその恩恵は少なくなりますからご注意を。
 一方で,金利については僕は悲観的です。どこの国の通貨も基軸通貨の米ドルとの金利格差の変化を危惧して,利上げ基調にあるからです。具体的には,アメリカはFF金利が9.11テロ前の水準に戻っていますが,国内のインフレ抑制を目的にさらなる利上げを考えている状況であり,この短期金利の利上げは長期金利上昇(つまり債券価格下落)に大きな影響を与えますから,実は現在は債券投資は慎重にしないといけない時期なのです。
 EU諸国も今はフランスの暴動などでユーロが売られていますが,米ドルの金利との格差が開くばかりでは国際資金の流入がますます乏しくなってきますので,金融当局は金利引き上げの可能性をここ数ヶ月はずっと示唆し続けています。EUだって金利上昇の可能性です。
 オセアニアも米ドルとの金利差を広げておきたいのと好調な国内経済状況もあって,利下げになる状況にはありません。
 日本は言うまでもないでしょう。景気が回復したら債券が売られて株が買われるので(実際にその動きが出てきていますよね)債券価格は下落しています。
 このように世界中が金利上昇局面にあるため,債券投資はできるだけ控えるべきではないかと思っています。金利分も年利は1.0%を切りますし(ただし1年目のみ)。こんなことなら黙って証券会社でアメリカの国債でも買っておいた方がよっぽど利回りがいいです。FX取引などで為替ヘッジしておけば為替リスクもそれほど心配いりませんし。
 もちろん10年以上資金を寝かせるつもりの長期投資であれば反対はしません。為替差益でカバーできるかもしれないからです。

 じゃあ,君は何に投資するつもりなのだ?と聞かれたら,僕は「今ならFX。将来は・・・状況を見て考える」と答えます。
 FX(為替証拠金取引)が「現在」有効であるということの説明はこっちのブログ(→ サイト)で現在も展開しているところです。解除したくてもできない日本のゼロ金利を逆に利用して,円キャリートレードで高金利通貨スワップ獲得作戦を展開するのが一番ラクです。株も最近はパフォーマンスはいいですが,個別企業の分析にはかなりの時間を割かないとできません。為替は通貨ペアも自分が得意なものはせいぜい5種類ですから,これらの通貨を分析しておけば足りますので。

 ゼロ金利が解除されたり,いよいよ日本のインフレ(おそらくスダクフレーションになるかハイパーインフレになると思われます)が始まったらFXから次の商品に乗り換えるつもりです。商品先物になるか海外ファンドになるか,今は勉強中ですが,資産保全のために研究していくつもりです。

 というわけで,グローバルソブリンは「僕なら」今はやらないねという結論。でもプロでもない素人投資家の判断ですから別に参考にするまでもありません。人気商品だし,なんだか得しそうだし,ということであれば取り組んでももちろんかまいません。とにかくいろいろと投資をしてみて経済の勉強を身をもってしていく方が大事かもしれません。やる前からウダウダ考えるよりもね。
 でも大事なのは終わってからの反省です。なぜうまくいったのか。なぜうまくいかなかったのか。うまくいったはずなのになぜうまくいっていないのか。などなど。その繰り返しで金融リテラシーは磨かれていくのです。

 と,かっこいいことを書いて今日は終わっておきます。

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