2005年07月27日

『サマワのいちばん暑い日 〜イラクのど田舎でアホ!と叫ぶ〜』

edd0de3a.jpg宮嶋茂樹『サマワのいちばん暑い日 〜イラクのど田舎でアホ!と叫ぶ〜』祥伝社 お勧め度★★★★★
(内容紹介はじめ)
 自衛隊がイラクでどんな活動をしていて,どんな隊員がどのような気持ちで任務に当たっているか知ろうとしたことがあるか?現地での生活は過酷だ。何日も続く過酷な環境の中で,決してありがたいという気持ちを表さないアラブ人への奉仕を続けている自衛隊員のことを我々はもっと知って評価すべきだ。数週間にわたって自衛隊取材を敢行したフリーカメラマンの,新聞やテレビでは得られない情報をしっかりと共有しようではないか。
(内容紹介おわり)

 著者は「不肖・宮嶋」と自称するプロ中のプロのフリーカメラマン。僕が著者のことを知ったのは,去年,橋田信介氏がイラクで殺された時に最後に会った日本人としてテレビに出ていたのを見たのが始めでした。それ以降は買いはしなかったけど本屋で何冊か氏の写真集(戦場カメラマンですから内容は・・・です)をパラパラっと見て,戦争の悲惨さを目に焼き付けてきました。著者が主に写真を寄せている週刊文春にも良くイラクの写真が載りますが,ほとんどが著者の撮影のものだと思って間違いないでしょう。戦争をすればどういうことになるかがさっぱり想像もつかないという人は是非著者の写真集を立ち読みしてみてください。それでも戦争をしたいという人はどうぞ,最前線で銃持って行ってくるように。

 本書は,自衛隊のイラク派遣が決まってからの彼ら自衛隊の生活がどういうものなのか,現地イラク住民の本音は何かなど,事件があったときしか報道しない日本のダメマスコミに替わって,日々移り行く戦地の動きをつづったものとなっています。イラク問題の正面からつっこんでリポートを発するなど「虎穴に入らずんば虎児を得ず」という姿勢はさすがはカメラマンと言うべきでしょう。見なければいけない(伝えなければいけない)ポイントを的確に描写しています。特に,イラクに派兵したにもかかわらず,たまにNHKで現地報告が特集されるという程度の扱いしか受けていない自衛隊隊員についてのリポートは他では読めません。

 国内では左翼陣営がうるさいので自衛隊称賛はなかなかできません。では自衛隊は悪者なのかというと,そんなはずがない。本書や週刊文春など一連の著者の自衛隊関連資料を読めば自衛隊隊員達の肉声が聞こえてきますから,そういうナマの情報から判断しなければいけない。人間くさい,それでいて従順な軍人達の姿がはっきりと見て取れるので著者が発する情報は資料としても重要な位置づけになると思われます。それでいて本書は読みやすい言葉(いわゆるアカデミックな論調ではない。日記風)で書かれているのでとっつきやすいでしょう。

 著者は長年の自衛隊ウォッチャーのようでして,かなり武器などに詳しい。特に86ページには,NATOで共通に使われる弾丸の大きさが7.62ミリから5.56ミリに変更された理由について詳細に説明がされています。殺傷能力をわざわざ落とす理由なんて僕にはわかりませんでしたが,説明を読んでなるほどと思いました。ネタばれしますが,要するにこういうことです。以下,引用します。

(p.86より引用開始)
敵一人を撃ち殺しても,敵戦力は一人減である。ところが,同じ撃ち所でも,弾頭が小さいと死なんケースが増える。負傷や。死体ならほっておけるが,生きとるうちはそうもいかん。負傷兵は担架に載せたり,肩を貸したりして後方に運ばねばならんのである。そのために,少なくとも二人の元気な敵兵が戦線から離脱することになる。ノロノロと衛生兵の所か野戦病院まで下がらんといかんのである。すると計三人の敵戦力を減却できる---。
(引用終了)

 戦争の「せ」の字も知らない僕ですから新鮮な驚きでした。なるほど映画『プライベート・ライアン』みたいなものか。えっ?ちがう?とにかく殺さない(=人道的)という楯を巧みに使った兵器なんですね。ま,それでも米軍などは最後は枯葉剤とか蒔いてしまうわけですがね。

 その他にも本書での見どころはたくさんあります。現地での外務官僚の態度や彼らとのやりとりが特に面白い。「私の命令で自衛隊に守らせる」みたいな勘違い野郎や,イギリスのセキュリティ会社に一日何千ドルという費用を払って護衛してもらっている状態へのコメントが痛快です。そういえば,この時点でイギリスのセキュリティ会社って有名だったんですね。殺された(とされる)斎藤さんが雇われていた会社ではなさそうですが,現地では官僚が雇っているぐらいだから問題点はとっくの昔に把握していたんでしょうに。ところで,斎藤さんの事件の続報が報道されないんだけど,いいんですかね。奥大使が殺されたときの国内の騒ぎ方と全く違う反応が出てきているので,官尊民卑ありありなんだなあと今さらながら思ってしまいますね。

 その他は,だんだんと危険が増してきて日本のマスコミ達がぞろぞろと帰国している中で一人ケロッと残ってリポートを続ける姿もつづられていて,なんというか頼りになるなあという感じがしました。所詮はフリーカメラマンだからだろと言われればそれまでですが,著者はいくつもの戦場をくぐり抜けてきたプロ中のプロですから,そんじょそこらのフリーとは違う。金をふんだんに使ったほうが良い情報がとれるというときはドーンと出していますし,アラブ人の特性を知り尽くして有利な交渉を展開するし,非合法(?)な方法で故障したパソコンの代替品を日本から送ってもらうし・・・。ま,読んでいて飽きませんね。

 もともと僕はイラク戦争への出兵は反対の立場でした。だって政府の(小泉首相の)説明は筋が通っていないかったから。朝日新聞の記事捏造にはやいやい言うくせに,アメリカ様の大量破壊兵器保有という事実捏造には何も言えずにブッシュに尻尾振っていただけじゃん。安倍さんも中川さんもしっかりしてくださいよ。言えないんだったら,日本は独立国ではない,アメリカの一属国に過ぎませんと宣言してください。日本政府がアメリカジャイアンに媚を売ってのび太をいじめるスネオみたいな卑怯なことをしているから,自衛隊はその被害を受けて,行きたくもないのに命令で仕方なくイラクに行かされているという印象しかもてません。実際は自衛隊は復興支援がしたくて行っている人がほとんどなのですが国民はほとんどそういう事実を知らないんです(戦争したくて行っているんじゃない!)。

 僕ならこうします。まず「日本はアメリカの属国であり,外交はもちろん経済についても年次改革要望書などに基づいた政策しかさせてもらっていません」と宣言します。だって事実だから。事実に基づかない朝日新聞などの歴史観は「自虐」ですが,事実に基づいているから自虐ではありません。これを日本の誇りがどうのこうのと言い出すから詭弁になります。実際はアメリカに逆らって暮らしていけないんだから,これは事実として宣言しないといけない。でないとスネオのまんま。

 それを前提に,自民党は今回もご主人様(アメリカ)の仰せに従いますという国会決議をすればいい。国民も納得します。決して「アメリカは国際協調の枠組みから外れて勝手ばっかりしている。けしからん」という論調がマジョリティになってしまってはいけない。これも事実ですが,日本みたいな非軍事国家は一瞬でジャイアンに潰されますから。「勝手ばっかりしているのは事実だけど,敵に回したら日本は損しかしないから従うしかない」と正直に言ってしまえばいい。共産党系以外の人間は誰も反論はないでしょう。

 ただし!ずっとこれでいいわけではない。僕は「面従腹背」という言葉が大好きです。準備して時期を待ちましょう。「いまに見ておれ」「臥薪嘗胆」いくらでも響きの良い言葉が出てきます。間違ってもアメリカに体だけじゃなくて心も奪われてしまわないように。それこそがポチではない「保守」だと僕は思います。

 最後はかなり脱線しましたが,イラクでの自衛隊の活動に興味をもっている方は読んでみて損はありません。まったく興味がない人には苦痛でしかないと思いますが,日本もテロ組織に名指しされている交戦国の一つなんですから興味はもっておいた方がいいと思いますよ。

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 歯の話とは趣が違いますが、目を世界にむけて以下の企画をいたしました。 楳津医院主催であの不肖宮嶋こと、カメラマン宮嶋茂樹氏の講演会を開催することにいたしました。 お気軽にご出席ください。 どなたでも参加できます。 1.講師  宮嶋茂樹氏2.テーマ 「.
宮嶋茂樹氏講演会開催【歯てな?】at 2005年08月26日 16:36