2005年06月13日

『牛肉と政治 不安の構図』

74018ef4.jpg中村靖彦『牛肉と政治 不安の構図』文春新書 お勧め度★★★★
(内容紹介はじめ)
 アメリカの牛肉産業は日本の農林族議員が示す政治力をはるかに上回る,強い政治力を持って君臨していることを知っているだろうか。世界的なパッカーが共和党とつながり,官僚を意のままに動かして,自分たちの権益を脅かす者はたとえ中小企業だろうと許さない。vCJDの調査すら州によっては全くなされないところもある。彼らはいかにしてかような政治力を持つに至ったか。今後のBSE問題を占うに無視できない論点がある。
(内容紹介おわり)

 著者の本を読むのは同じく文春新書の『農林族』以来になります。いずれもしっかりした取材に基づいており,僕の最も興味がある農業問題をテーマにした著作です。折しも本書を読んでいる最中にアメリカで2頭目のBSE(の疑い)が発生しました。実にタイミングがいい。いや,たまたまですが。

 アメリカはなぜ,あんないい加減な検査しかしていないのに他国に胸張って「科学的」検査を行っているので十分だと言えるんだろうか。その答えの要諦が本書のテーマになっています。簡単に書けば,アメリカの牛肉問題とは日本の米問題と同じなのだということです。日本が農林族議員の政治力で米の輸入に猛反対するのに似ているということです。これを頭に入れておけば牛肉問題が実にすっきりしてきます。なーんだ。そういうことか。

 本書を読むまでは,アメリカの政治(特に共和党)がここまで牛肉業界と縁が深いということは知りませんでした。新聞ではさらっとしか書いていないような(たぶん深く書かないように言われているんだろう)事実が,著者のインタビューを通すと実に多くの情報が見えてくる。興味深い内容を拾ってみよう。

(p.58より引用開始)

 アメリカには,農務省(USDA)が管理する正式の牛肉輸出認証制度がある。(略)認証するのはUSDAのAMSという部局になる。簡単に言えば,輸入国の希望に応じて牛肉の安全性を保証するもので,パッカーごとに認証する。(略)アメリカのBSE発生で,ほとんどの国は牛肉の輸入を止めた。しかしその後,メキシコは,アメリカ産牛肉の輸入を再開した。再開できた理由は,この認証制度を利用したからである。
(引用終了)

 このあと,この制度を使って全頭検査をしたうえで日本に牛肉を輸出しようとした会社があったが,中小企業で政治力がなかったためUSDAに拒否されたらしいことが書かれています。USDAとすれば中小企業であっても全頭検査を認めてしまうと大手企業にも適用させなければならなくなる可能性が出てくるので排除したのでしょう。そこまで官と財は癒着していることがわかります。また,引用の部分ではメキシコへの輸出について書かれてありますが,以前こんな記事をみたことがあります。
メキシコから米国産牛肉が迂回輸入のおそれ

 詳しくはリンクを見てください。一部を引用すると,「メキシコからの牛肉輸入は、平成15年はわずか0・2トンしかなかったのに、今年に入って8月までに601トンと急増している。アメリカでBSEが発生して輸入禁止になったあとと、期を一にしているのだ。」
 もうおわかりですね。なりふりかまわない。日本の新聞をひっくり返してもこんな情報は出てこないですよ。日本で安い牛肉を食べるのはやめましょう。ま,オージー牛ぐらいならマシかな。BSE1頭もでていないし。

 このように本書では一貫してアメリカの行政が牛肉業界と深い深いつながりがあることを実例を挙げて指摘しています。同時に献金が少ない中小企業の正論は全く中央には届かなくなってきているということまで詳しく書かれています。牛肉輸入再開問題に興味がある方は是非読んでいただきたいです。知らない情報がたくさんありますから。興味がない人は読んでも仕方がない本でしょう。このブログのエントリだけ見てスルーしてください。

 その他,本書ではハンナン事件についてとか,クロイツフェルトヤコブ病についての考察も書いてありますが,専門書に比べると内容はそれほど濃いわけではないです。新聞記事とインタビュー中心に出来事をまとめただけという印象なので,興味深くこれらの問題をワッチしてきた方には不要かと思います。これから勉強したい,興味をもったという方は読んでおいても損はないでしょう。

 そういえば最近,牛食べてないなあ。でもカレーとか昔から食べているので牛エキス(脊髄とかを砕いたやつね。BSE危険部位)は摂取してきたなあ。ま,BSE発生以降は豚エキスに全部変わっていますけどね。それにしても味の調味料関係やインスタントラーメンなんかには,昔はしょっちゅう使われていたんだって。今さら食べなくてもすでに潜伏期に入っているかもね。

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