2005年04月28日

『日本語力崩壊』

30c4e9c7.jpg樋口裕一『日本語力崩壊』中公新書ラクレ お勧め度★★★★
(内容紹介はじめ)
 予備校生達の国語力の乏しさを痛感せざるをえない。間違ったゆとり教育がもたらした影響であろうか,自分の思いも伝えられず模範解答しか求めない没個性的人間が非情に多い。なぜだろう。そもそも入試の国語の問題がよくないからではないか。入試問題は出題者よりも読解力が豊かな優秀な受験生にとっては不利ですらある。そこで小論文を中心にした入試制度を提唱する。個性の発見に繋がる小論文をもっと活用させるべきである。
(内容紹介おわり)

 著者は「受験小論文の神様」の樋口裕一氏ですが,僕は小論文で受験したことがないので初めて目にする名前でした。学生時代から国語が苦手で理系に進んだ僕としては,本書に出会わなければ小論文なんてものに興味を抱くことはなかったかもしれません。それでも受験生へのアドバイスということで1ヶ月ほど前のエントリで書きましたが,僕自身が経験していないのでどうも説得力が乏しかったなあと反省しています。そういうわけで,サブタイトル「でもこうすればくい止められる」という文言にも魅かれて読んでみました。

 実を言うと上記のような理由は後付けでして,本書も題名のインパクトの大きさでつい手に取ってレジまで持っていってしまったというのが実状ですが,結果的には著者の主張には大いに共感できる部分がありました。

 まず本書の大きなテーマの一つは「ゆとり教育」にあります。著者の考えは,詰め込み教育から脱却して個性を重視するために導入された「ゆとり教育」の精神を曲解して負の部分だけを広めてしまったのが昨今の「ゆとり教育」失敗論だとするものです。「ゆとり教育」そのものは間違っておらず運用がまずかったというのです。間違った「ゆとり教育」は適度な競争すらなくし,その結果序列をなくし,その結果学習意欲をなくし,また倫理観すらなくしてしまった。ではどうすればよかったか。要するに生徒に考えさせて表現させるというプロセスが足りなかったのであり,今後それを十分な能力として修めさせるために「小論文」教育を重視しようという画期的な主張です。

 「ゆとり教育」の問題提起を終えて「小論文」賛美がしばらく本書で展開されます。著者は国語の問題に客観的解答なんてありえないと喝破し,センター試験の正解のいい加減さについても言及されています。ふさわしくない選択肢を選ぶべき問題を勘違いしてふさわしい選択肢を選んでしまった同僚の予備校講師が,勘違いしているのにもかかわらず無理やり理屈をつけて正解を導き出すことすらあるという笑えない冗談も紹介されており,結局は文章は受取る(読む)だけでは国語能力の発達には不十分であり,発信(書く)行為がなされないといけないのだという論理展開になっています。ここは僕自身も経験したことなので大いに共感できました。僕も発信の大切さに気付いてブログを書き続けているわけであり,できれば多くの人に実践してもらいたいことだとも思っています。

 著者は入試の国語は「小論文」を中心にすべきだと説きますが,すぐにそうすべきだとは説いていないところにも注目しましょう。すなわち,これまでの出題でまともな設題ばかりとは限らないという入試を課する側の問題と,採点基準があいまいだという決定的な問題を提起しています。これらの問題が解決されれば,すぐにでも「小論文」中心の国語試験に変えるべしということなのですが,2つめの採点基準を定めるというのは現実的には非常に難しいのです。公平さを期するあまり結果的にソツの無い意見ばかりが高得点になったり,採点する側と主張が違うときに恣意的に評価を下されるリスクがあったりするからです。しかし,この点については著者は割り切っています。主観的な評価は仕方がないと。僕も全くそのとおりだと思います。早稲田なら早稲田,慶応なら慶応の入学を許可するべき基準というのがあってしかるべきだと思いますから。極論すれば思想が遇わなければ不合格だっていいわけです。私立ですから。これが国公立になると賛否両論あるでしょうけど。

 本書は最後に「本を好きにさせる十か条」「新聞を楽しむための五か条」を提示しています。一つ一つはあげれませんが,無理して子供に本を与えるなとか,親が読む姿勢を見せないくせに子供に強制するなとか,本を与えるだけではいけないとか,子供の教育にとっていかに読書を効果的なものにしていくかという観点で経験論を述べたものになっていて,なかなか一読に値します。

 さすがに小論文の先生という感じの理路整然とした読みやすい本でした。教育問題に並々ならぬ興味がある僕としては,非常に参考になる本でした。ただ,著者が決めたのかどうかわかりませんが,題名を見ると悲観的すぎるイメージが出てふさわしくないなあというのと,理科系の人達へのアドバイスがあればよかったなあという物足りなさもありましたので,★4つとしておきます。でもあらためて国語力は発信することなしには向上しないのだなあと認識しました。

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