2005年04月22日

『チャイナ・コントロール』その2

 昨日に引き続き浜田和幸『チャイナ・コントロール』祥伝社についての書評を書きます。
 まず紹介するのは,中国が世界中の企業を相手に技術を盗みまくっているというもの。

(p.55より引用開始)
また,二〇〇三年八月,FBIのスパイ摘発部門の責任者デービッド・ツァーディーがAP通信に語ったところでは,「アメリカにとって今後十年で最大の脅威になるのは,中国だろう。なぜなら,中国はアメリカ国内に三〇〇〇社を超えるフロント企業を所有し,そこから経済,技術に関する秘密情報を盗み出しているからだ。こんなに大掛かりなスパイ活動を行っている国は他にない」と言う。
(引用終了)
 
 アメリカでさえこの状況です。よく知られたことですが日本にはスパイ活動を取り締まる法律がないので,今でも情報はだだもれ状態です。国家ぐるみでスパイ活動している国(しかも彼らは罪悪感なんてないでしょう)と無条件で仲良くやれというのは無理ですから,日本としては最低限スパイ防止法みたいなものを作る必要があります。でも人権擁護法案と同じで,スパイをどのように定義するのかとか,誰が決定するのかとかいう問題があちこちから出てくるのでしょうけど。特に左巻き系から反対論は多いでしょうね。

 本書59ページによると,マイクロソフトのような大企業もシステムのメンテナンスの下請けに多数の中国系アメリカ人を雇用していて,彼らが第一線のスパイ活動を展開しているようです。人件費が安いからといって雇用した人たちが実は最も大事なデータを本国に持ち出しているというわけです。結果的に高くついているとも言えるでしょう。こうやって人民解放軍が資金を出してアメリカ国内に設立したフロント企業が様々な先端技術を合法的な手段で中国に持ち出しているらしい。アメリカの真似が好きなどこかの国も同じようにやられていると見て間違いないでしょう。

 本書は「日本人が知らない現代中国の闇」という章に続いていきます。ここでは真珠湾攻撃が米中両国が仕組んだ特殊工作であったこととか,現在も人民解放軍を海外で活発に展開していることなどが書かれています。その中でも特に日本のODAについて,中国政府が国内向けには「日本の側から償いとして援助をさせてくださいと言ってきているのだ」という説明をしているということをスルーするわけにはいきません(p.79)。日本人が一生懸命働いて得たお金が感謝もされない形で隣の国を富ませるために使われているというのは非常に情けない。今日も小泉首相はバンドン会議で村山談話を踏襲したみたいですが,こういう状況が続く限りいつまでたっても感謝されないままなのでしょう。空しいですね。

 それから「闇」という部分で気になるのは,中国政府が発表する各種の統計数値がいかにうさんくさいものかというものです。GDP成長率については8%成長などと言われていますが,きちんと検証する術がないために数字が独り歩きしていて,他の数値で妥当性を推量すれば,過少報告だと結論付けるレポートから過大報告だとするレポートまで実に様々な検証結果が出るようです。金がすべての「国金政治」がまかりとおる中国ですから,他人を騙すことなんて何とも思っていないようで,信じて投資する方が悪いとさえ言えるような状況のようです。BIS規制の自己資本比率8%を無視する銀行や,麻薬,ニセ札,環境汚染など大問題のオンパレードですから,カントリーリスクは我々が思っている以上に大きいようです。中国株とかに投資している人,またはこれから投資しようとしている人は要注意です。ちなみに僕は中国ものには全く興味がありません。今のところ元にも手を出すつもりはありません。

 本書の後半部分は,日系企業が中国に進出して成功した事例(ソニー,松下など)とその原因,失敗した事例(新日鐵など)とその原因についての記述があります。詳しくは紹介しませんが,現地の中国人をどのように扱ったかで差が出たようです。中国ビジネスを考えている人は読んでみると参考になるでしょう。

 そしてメインとなる最終章は,こうした中国の現状や様々な問題点,リスクを認識したうえで,日本として今後どのような施策をとっていくべきかという処方せんがちりばめられています。全部を書いてしまうと本書を読む動機がなくなってしまいますので敢えて書きませんが,要するに50年は進んでいるといわれる日本の技術力と資金力を上手に使えというものです。「上手に」というのは対中交渉の様々な場面で切り札として使いうるという意味です。中国企業は日本の先端技術を真似して盗むことはできますが,それらを活用して新しく何かを生み出すまでの技術力はないですし,中国の国内では技術力重視の教育を行っていないのでこれからもその技術力が培われることもないだろうという読みがそこにはあります。アメリカに仕掛けられた円高に苦しみ,今では死語となったグローバルスタンダードによって壊滅的な被害を受けたにもかかわらず土俵際で踏ん張っている日本企業の技術力は,チンピラ帝国に真似できるような水準ではありません。資源のない日本が唯一国際的に認められているのがこの技術力と,勤勉な国民による高い貯蓄率なわけであり,やりようによっては世界をリードすることだってできるのです。ただし現代中国の弱点をついて日本の国益にするのだという意識がなければこれは実現しません。日本の政治家達は是非この視点を保って日本の国益を第一に考えて策を練ってもらいたいものです。

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