2005年03月26日

『ホントは教えたくない資産運用のカラクリ2』

cf855bfd.jpg安間伸『ホントは教えたくない資産運用のカラクリ2』東洋経済新報社 お勧め度★★★★
(内容紹介はじめ)
 海外には収益率の高いファンドが多い,金利が上がると債券が暴落して銀行が破綻する,元本保証で高利回り,資産100億円の大富豪・・・。いずれもよく耳にする文句だが,どこまで本当のことを理解できているだろうか。異なる通貨ベースで収益率を比べる愚かさ,ALMの理解不十分,保証主体の問題,正味資産の状況など詳しく見れば隠された真実に気付く。リスクを認識して稼いでも稼いでも奪われるだけの人生にさよならしよう。
(内容紹介おわり)

 草津からの帰りの電車内で読んだので,もうかれこれ2週間になりますが非常に勉強になる,それでいて読みやすい本でしたので未だ興奮が残っています。本書は1作目とは少し視点を変えて,いかにして騙されないようにするかという視点で投資全般のカラクリについて書かれてあります。デフレ通貨ベースの表面利回りがインフレ通貨ベースの表面利回りに遠く及ばないのは理屈から言えばあたりまえだということとか,生保の逆ザヤがなぜ起こったのかとか(ALMさえきっちりやれば逆ザヤなんかで経営が行き詰まるわけがない),だれが保証するのか不明な「元本保証」を語る投資商品などについてかなり詳細に書かれています。日ごろ何の気なしにテレビや新聞の論説を視たり聴いたりしていて疑問に思わなくなってしまうことは皆さん多いと思いますが,本書をちょっと手に取ってゆっくり考える時間があれば,いかに新聞記者などの知識が薄いかなんていうことも見えてきたりします(別に記者全員が知識が足りないとは言ってません。個人的にはリスペクトしている記者ももちろんいますからね)。
 
 いくつか紹介したい部分がありますので,2つほど紹介しておきます。
 まずは「元本保証」の投資商品について。ウチがお寺だからでしょうか,しょっちゅう怪しげな会社から投資話を持ちかける電話がかかってきます。しつこいぐらい。そこで決まって言うセリフがこれ。「元本保証」。・・・へー。誰が保証してくれるんだい?本書には最低限この疑問を持つようにしましょうと書いてあります。国が保証してくれるわけではありませんよ。せいぜい売りつけに来るやっかいな会社が保証しているっていう頼りないものがほとんどでしょう。そんなのに騙されてはいけません。もっと詳しく言うと「元本保証」を語って勧誘するのは立派な出資法違反ですので,そんなこと言い出す業者には通報しますよとか言って撃退してもいい。でも本書の著者はけっこう慎重派で,こういう怪しい業者は暴力的なところが多いから正面切ってこういう疑問をぶつけないほうがいいよなんていうアドバイスがありました。でも電話だし・・・ちょっとぐらいからかう程度に言ってみようかななんて思っているんですけど,やめたほうが身のためかな?
 
 それからALM(Asset Liability Management)について。これは主に金融機関の金利リスクを管理する際に用いられる経営管理手法なわけですが,当然,家計としても知っておいたほうが良い手法です(現実的に有効に利用できる家計は少ないでしょうが)。変動型金利で住宅ローンを借りている一般家計を例にとると,長期金利が上昇して利払い負担が大きくなってきても,同じぐらいのデュレーションを備えた資産でマッチングしておれば実入りも増えますので困ることはないというものです。でもこの同じぐらいのデュレーションを備えた資産というのがくせ者でして,なかなか一般家庭のバランスシートからではそんな資産は出てきません。金利の上がり方も景気が良くなるという良い意味の金利上昇であれば株に資産をシフトしておけばよいのですが,財政危機からくる金利上昇であれば通貨も株も売られてくる可能性があるので株にシフトしておけばいいとも言えないのです。まことにやっかいです。ま,はじめからそんなマッチングについてはあきらめるか,徹底して情報収集して対処するかは人それぞれってところでしょうか。
 
 生保の逆ザヤが騒がれました。運用利回りを支払い予定利率が上回ってします状態を逆ザヤと呼んでいますが,著者によれば,逆ザヤは資産運用の原則どおり「負債に見合った運用をしていれば避けられた」はずだということです。よせばいいのに生保は銀行グループやその他大手企業との株の持ち合いなんてことをしていたのと,全く性格の異なる不動産資産を多く持っていたことによるデュレーションのミスマッチが逆ザヤを招いたわけです。バブルのころは負債の予定利率を遥かに上回る運用利回りをたたき出していたわけですが,バブルがはじけて一気にリボルビングしてしまい,あれよあれよという間に形勢逆転してしまったのです。うまくいっているときはやっぱり自分の欠点には気付かないもんなんですよね。こうして現在に至るまで逆ザヤは根本的解決をみていません。ALMの考え方は非常に重要です。ま,重要だと認識できたとしても,一般の家庭では変動金利のリスクヘッジで先物を買うとかそういうことはできませんから(先物の取引単位が大きすぎる)金利が上がらないようにお祈りするぐらいしか対策はないんですけどね。
 
 最後に本書の著者も,やっぱりどうしても日本の財政破綻が気になるようでして,国民資産を国が没収することの可能性とその方法についても言及しています。巷に出回る破綻本ほどは詳しくはありませんが,いざとなったら国は何でもやってきますよというような警告は出してあります。特に資産課税をされるとどんな資産に換えていても何らかの形で課税されて強制的に国に盗られますので,対策そのものがバカバカしいということになります。ま,ここまで国がしかけてくる可能性は今のところ半分もないでしょうが,大きな地震が2つ3つ日本列島を襲えばその可能性は一気に高まるでしょうね。国からの徴税から逃れうる唯一の方法は外国人になることなわけですが,土着型のお寺住職としてはそれは不可能な話ですね。せいぜい念仏を称えて日本が沈まないことをお祈りしておきますかねえ。
 
 本書は1作目と同様に,投資を始めるにあたって知っておいたほうが良いという情報が詰められた本です。ですから,本当に効率良く投資したい方,騙されたくない方はぜひ読んでおいた方が勉強になります。逆に,難しいことはわからんけど儲かったらきまりどおり税金払えばいいんでしょという考えの人は読まなくてもいいです。いつまでたってもカモはカモのままですがね。

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